資料データ付きの本

1895年12月28日、リュミエール兄弟は世界最初の実写映画といわれる『工場の出口』や『庭師』をパリのグランカフェで上映した。その後シネマトグラフという新商品の販路拡大のため、専属技師たち50人ほどをメキシコや日本など世界各地へ送り出し、撮影と上映にあたらせる。
蓮實重彦リュミエール元年』には、古賀太構成・訳の「ガブリエル・ヴェールの手紙」が収められており、リュミエールの撮影技師の一人、ガブリエル・ヴェールがいかにして未知の世界にキャメラを向けたのか、その好奇心、驚き、興奮が活き活きと伝わってくる。NHKのドキュメンタリー番組映像の世紀には、彼ら撮影技師が撮ったと思われる貴重な映像が多く収められており、何度も繰り返しみるほどその番組が好きだった私は、あの映像のことか、などと思いだしながら文章を読んだ。
映像資料がリュミエール元年』に付録としてついていたらもっと良かったのに、と思う。もちろん本にはその様子を物語る詳細な描写や豊富な図版も収録されているけれど、もし私があの映像を思い出すことができなかったとしたら面白さも減っていたに違いない。語学学習の本などではCDがつくのが当たり前のようになっているし、DVDは大分廉価で量販されている。それ以前にインターネット上では多くの画像、動画が簡単に見られるようになっているのに、本と資料としてのデジタルデータのセット販売は存在はするけれど、数少ないように思う。著作権の問題などで難しいのだろうか。それとも作っても人気がないからなのだろうか。本にシリアルナンバーをつけ、インターネットであるサイトにアクセスすると、本を購入した人のみ映像を見ることができるとか、そんなシステムでもよいのだけれど、そうした本が一般的にならないのはなぜなのかと思う。そこまでするくらいなら本にする必要はなく最初からインターネット上のデータにしてしまうほうがよいということなのかもしれない。この境界は一体どこにあるのだろうか。