2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

社会の乳母

独身者たちの「近代」は、「家族」を中心とした、伝統的コミュニティを解体する。そこに「個人」が生まれる。自立した平等な「個人」のイメージは、「独身者」のイメージを影にして、「近代」の出発点に立っているのである。しかし、それは孤独な「個人」で…

フラナリー・オコナー

「フラナリー・オコナーってどんな人だったかな」と思いながら読んだジュヌヴィエーヴ・ブリザック著『フラナリー・オコナー 楽園からの追放』。フラナリー・オコナー(1924−1964)は、難病のため三十九歳で世を去ったアメリカの作家だ。この本には、彼女の…

ハシェクの風刺短編集

ヤロスラフ・ハシェクの作品は読んだことが無かったのだけれど、チェコに行った折、彼の代表作『よき兵士シュヴェイクの世界戦争中の運命』で主人公シュヴェイクが通ったとされる酒場に入ったことがあるので、機会があれば読んでみたいと思っていた。 ハシェ…

まずは3年仕事を続けなければならないのか?

競争社会を支えている基本的な感情は恐怖だと思います。暗黙のうちに存在する恐怖です。一生懸命に働き続けなければ貧乏になるかもしれない、ホームレスになるかもしれないという恐怖。あるいは、病気になったら医者に行かねばならないが、でもその支払いが…

安吾の戦後

西川長夫氏の、国民国家や戦後歴史学等に関する考えが様々な形式で収められた、『戦争の世紀を越えて―グローバル化時代の国家・歴史・民族』という本を読んだ。 坂口安吾研究会における報告がまとめられている「戦争と文学―文学者たちの十二月八日をめぐって…

Ex-Librisについて-武井氏の考え

Habent sua fata libelli.(書物は自己の運命を持つ−蔵書票の金言より)自分の持っている本に蔵書印を押したり蔵書票を貼ったりしたいという気持ちにはなったことがないけれど古本を購入し、素敵な蔵書印や蔵書票がついているとちょっと嬉しくなる。線引や書き…

ラウル・デュフィと棟方志功

木版画作品を見る度思うのだけれど、それらの作品がどれだけその地域を代表するデザインを使用したものであっても、アジア的とかアフリカ的とかヨーロッパ的だとかそういうエスニシティーを不思議と強く感じさせられることがない。素朴な表現方法自体が世界…

Anchors Aweigh

中学・高校時代、ミュージカル映画が大好きだった。その頃、日本で公開されているMGM黄金期のミュージカル映画の大半は観てしまったので、最近でミュージカル映画を観たといえば、ウディ・アレン監督『世界がアイ・ブ・ユー』とフェデリコ・フェリーニ監…

『ファンタジーの冒険』読了メモ

ファンタジーと聞くと、騎士や妖精が登場する中世ヨーロッパ的な物語を連想してしまっていたけれど、現実的な表現に重きを置かない文学すべてを無差別に指し示すものとして広く捉えると、神話、民話、シュールレアリスム小説、SF、ホラーまで含み、例えば…