私は赤ちゃん

松田道雄著『私は赤ちゃん』を読む。1960年に発行された本だ。古本好きの私も、育児に関してはさすがに最新の知識が欲しいと、新しい本を何冊か読んだ。それらの本には、「昔は抱き癖がつくからすぐ抱っこしないほうがよいと言われたが、赤ちゃんが求めたら十分してあげるべき」とか「昔のように離乳を無理にさせようとするのではなく、自然に赤ちゃんが卒乳するのを待ってよい」など、過去の育児法を修正するようなことも多く書かれてあったので、『私は赤ちゃん』を今読んで参考になるようなことなどないのだろうな、と思いつつも、昔の育児に興味があり読んでみた。しかし、結果的に非常に参考になった。赤ちゃんを育てるうえでの親の心構えを指南してくれるような本だったからだ。日進月歩の医学的知識は古くなりもするだろうけれど、心構えのように精神的なものは知識ほど早く古くはならず、今でも十分通用する。この本が増刷され続けているということにも納得だ。話の中には、四角四面な対処を押し付ける医師や保健師、根拠のはっきりしない情報をばらまき親の不安を煽る人、またその情報に一喜一憂する親など登場するが、現代社会にも多くいる人種だ。著者は小児科医としてあくまで優しく、赤ちゃんの人権を尊重し、面白い読み物を通して親たちがどんなふうに赤ちゃんと接したたらよいのか自然にわかるよう導いてくれる。
大阪の朝日新聞に連載されていた話らしく、見開きで一話完結の物語になっている。タイトル通り赤ちゃんの目線で綴られた話なのだが、一人称が「ぼく」ではなく「わたし」となっているところからもわかるように、赤ちゃんが一人前の大人っぽいキャラクター設定で、一丁前のことを語る。そのイメージギャップがユーモアを生み出し笑いを誘う。時には社会に対する提言もなされているが、半世紀前からちっとも進歩していないなぁ、と思うことも多かった。何より、各話に添えられた岩崎千尋さんの絵がおしゃれで可愛らしい。

私は赤ちゃん (岩波新書)

私は赤ちゃん (岩波新書)