ヌーヴェル・バーグの始まり

DVD『美しきセルジュ/王手飛車取り』を観た。

『美しきセルジュ』のほうは、クロード・シャブロル監督の処女作だ。1957年作品で、この作品の成功がヌーヴェル・ヴァーグの始まりとなったと言われている。「ヌーヴェル・ヴァーグらしいな」と、感じさせられる場面がたくさんあって、「なるほど、ヌーヴェル・ヴァーグの始まりという評にふさわしい映画だな」と、思った。

クルーズ県サルダンでオールロケがおこなわれたということだが、クルーズ県とは、フランスの中央部、人口125000人ほどの小さな県だ。冬の寒さが厳しそうなこの土地は、何だか私の育った土地を連想させて、セルジュや町の人の鬱屈ぶりは、私にとって想像しやすいものだった。

パリから生まれ故郷の田舎町に帰ってきたフランソワと、幼馴染の親友セルジュ。田舎町で自分の夢見ていた生活とは違う生活を送っているという現実を受け入れられず、酒びたりの毎日を送っているセルジュは、パリで成功しているかにみえるフランソワに複雑な感情を抱く。教会も、セルジュや他の若者にとっては救いとならず、いかんともしがたい閉塞感に覆われた町。しかし、フランソワのほうも、都会でそんなにうまくいっているわけではないのだ。

田舎から期待されて都会に出て行った若者が、広い大都会に出て行って、夢を果たせずに故郷に戻るということはよくある話だ。一方、何らかの事情で、田舎に残らざるを得なかった若者は、都会に過剰な期待を持ったまま、田舎での生活を続ける。彼は、そこで生活することでしがらみも増え、なかなか簡単にはそこから抜け出す勇気も出ない。これもよくある話だと思う。

幼馴染とそれぞれ別の道を進むことにして、何年かぶりに会った時の、見えない壁。別に、都会とか田舎とか土地に限らずとも、違う環境を選んだもの同士、住む環境が違うことで考え方も変わっていく。昔は永遠のように思えた感覚が、今、違っていると確認したときのある種の寂しさ。これを年齢を重ねるごとに、感じることが多くなった。もちろん、違う道を歩んでいる友人の話は興味深いものとして聞くことが出来る。ある道を選んだことに後悔がないものには、嫉妬という感情も生まれないと思う。でも、そういうどろどろしたものがなくても、友人とお互い住んでいる世界が変わってしまったことを確認しあったとき、やっぱり寂しさを感じてしまう。親が子離れしなければならないときと似たような感じなのではないか、と想像する。こればかりはどうすることもできない、仕方のないことなのだけど。

と、この映画をきっかけに「そういうものなんだよなぁ」と考えたりして、ちょっと重い気分になった後に、

『王手飛車取り』を観た。30分ほどの短篇で、監督はジャック・リヴェット。1956年作品。『王手飛車取り』という痛快な題名通り、テンポよく話が進む、エスプリに富んだ作品。トリュフォーゴダールロメール、シャブロル、アラン・レネまでちらっと出演しているこの映画、細部も愉しむことが出来るオシャレな映像で、ラストを知らなかったはじめての時ほどのわくわく感はないかもしれないけれど、何か景気づけしたいときなど、また観ても良いな、と思えるような小気味良い作品だった。

このDVDにこの順番でニ作品収められているのは、よい組み合わせだと思う。『王手飛車取り』は、爽やかな食後の烏龍茶みたいな役割をしている。なんて思ったら両監督に失礼かな・・・。

美しきセルジュ/王手飛車取り [DVD]

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