食事と気分

森茉莉生誕百年を記念して出版された森茉莉 贅沢貧乏暮らし』という本がある。森茉莉の文章の中に出てくる食べ物を再現した頁が多い。料理の写真は、どうしても文章によって膨らんだイメージに程遠く感じてしまう。けれど、いつか自分で彼女の著作の中の食べ物描写部分をまとめて書き写しでもし、それを再現したいと思っていたので、自分でまとめる暇が出来るまでは、これを参考に森茉莉風の食事をとりたいと思っている。そういう風に使っている本は、ほかに石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる レシピ版』がある。森茉莉石井好子、両氏ともに卵好き。

甘すぎない、急激に冷やした珈琲に焼麺麭、ジャム代りの桃の缶詰の食事は感覚としてはアメリカの独身の男の、メイドが俄かに休暇を取った日の、カリフォルニアの桃のジャムと珈琲と麺麭である。(『或日の夕食−背番号90の感度』森茉莉

というわけで、何も調理しなくてよいのだけれど、今日は、この組み合わせを実践してみた。冷やした珈琲に焼麺麭に、桃の缶詰。森茉莉は、アメリカの独身男の気分でこのつまらない食事を愉しくとることができたのだろうか。私も、森茉莉の気分で、これを美味しくいただくことが出来た。食事に気分は重要で、一緒に食事をとる相手と関係が悪いと美味しい料理もまずくなるし、恋する相手とのはじめての食事だとまずい料理の味にも気付かないだろう。1人で食べるときも、「今日は○○の気分で」と、自分ではない誰かになったつもりで食べることで愉しく食べることが出来る単純な私は、幸せものだ。インスタントラーメンも小池さんの気分で食べると美味しく感じる。ここ連日の暑さには食欲もなくなりがちだけれど、この方法で猛暑を乗り切りたい。


森茉莉―贅沢貧乏暮らし

森茉莉―贅沢貧乏暮らし

[rakuten:book:11311753:detail]