薬みたいな本
香山リカの『老後がこわい』を読んだ。女で一人暮らしをしていて、安定した仕事についていなくても、出来るだけやりたくないことをせずに暮らしたいと思っている私は、将来への不安を打ち消すために様々な思考方法を取り入れてなるべく不安を抱かないようにしているのだが、やはりものすごい不安に襲われることもあり、ついついこの本に手がのびてしまった。
きっかけは、美容室で久々に女性週刊誌を読んだことだと思う。髪型のイメージを決めようと参考までに手にとった女性週刊誌の特集は、お金についてだった。だいたい私と同世代の女性の貯金がどの程度か、というデータが掲載されており、その額の大きさに私は動揺した。私が、想像していた額をはるかに上回る嘘かと思うような額だったからだ。
なんとかそのようなデータは、信用できないものなのだ、と自分に言い聞かせようとしたし、「人は人、自分は自分なのだから」と、動揺するのを恥ずかしいことだと思うようにしたけれど、平静を取り戻すにはかなり時間がかかった。
小学生や中学生の頃も、雑誌の記事には不安にさせられた。特に、当時の一番の関心事、恋愛に関する記事には、読者による初体験の告白ページなどに、自分が皆からおくれをとっていると思いこまされ、あせったものだ。
そんなデータに踊らされないように、と、「メディアの嘘」について大学でも授業を受けたりしたのだが、私が今回動揺したのは、一番気にしている経済的な問題だったからだと思う。不安におもっているところをつかれると理性を失いがちだ。
そもそも、雑誌というのは対象とされる読者の層が年齢や性別、趣味などを考慮にいれた特定のライフスタイルにあわせて創られている。小さい頃は、流行についていくために自分にあった雑誌を選択するというあたまがなかったけれど、いい大人なのだから、基本的に自分に合う雑誌以外は異質な文化を研究するくらいの気持ちでつきはなして読むことが必要なのに、うっかりとりこんでしまった。
『老後がこわい』は、雑誌ではないけれど、美容室に行って以来ここ3日ほど不安定だった私の症状に処方する本としてぴったりだった。またしばらくは安定期にはいることが出来そうだ。
雑誌や本や、音楽や絵画、自分に合わないものに触れてみるのも視野を広げられて(免疫をつけられて)楽しいけれど、薬のようなところもあって、自分に合わないものを弱っているときにとりこむと、思わぬ作用に苦しむ。「良薬口に苦し」というように、難しいなと思ってもがんばって取り組んだ本ほど、すごく面白かったり、目からうろこをおとされることもある。
ケストナーの『人生処方詩集』なんて本も、いろんな症状にあわせて使える詩集。へたな薬局で売っているような薬より、一篇の詩や、一枚の絵のほうがずっと効くこともあり、そんなとき、芸術と呼ばれるものはすごいな、と、みなおしてしまう。
- 作者: 香山リカ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/07/19
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- 作者: E.ケストナー,小松太郎
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