ブルーエット人形

白水社文庫クセジュシリーズは、情報がふんだんに盛り込まれていて教科書的なので、何かについて調べたい時、とても参考になる。ただ、読み物としては、教科書がそうであるように、事実の羅列が続く部分が多く、余程そのテーマに関心がなければ読んでいて眠くなってしまうこともある。フランソワ・テメル著『おもちゃの歴史』は、私が久々に眠くならずに読み終えた文庫クセジュだ。

図版がたくさんあり、文章に書かれているおもちゃがどのようなものだったかイメージしやすくわくわくさせられた。ヨーロッパ(主にフランス)のおもちゃ中心に紹介されているのだが、そのおもちゃのなんと魅力的なことか。芸術品と呼べるほど質の高い昔のおもちゃ、その製作者として名を残している人はほとんどいないという。

二部構成のこの本の第二部はまるごと人形の歴史についてだ。
特に面白いな、と思ったのは、ブルーエット人形のこと。1905年、教会と国家の分離を引き起こしたフリーメーソンの行動に反対するカトリックのジャーナリズム運動から生まれた新聞『La Semaine de Suzette』の新規予約購読者への「景品」として、1960年までの55年間、「フランスの未来の母たち」であるカトリックの少女を対象に製作されたようだ。今世紀を代表するファッションドールで、これにより55年間の子供服の流行をたどることが出来るという。写真でみる限り、人形も服もかなりしっかりしたつくり。購読料がどれほどのものだったのかはよくわからないけれど、このお人形欲しさに、親に購読をせまった子もいたのではないだろうか。カトリックではない親は困ったことだろう。

おもちゃの歴史 (文庫クセジュ (808))

おもちゃの歴史 (文庫クセジュ (808))