料理のうた
見事なモカの樹の茂るかぎり、
木の実がパチンと音をたて、
珈琲挽きがうごいている間、
銀製の器から
湯気をたてた流れがすべり、
支那の陶器が
黒い潮をうけとめている間、
珈琲が、ブリテン島の妖精に
親しいものである間、
芳香の流れが
下れた頭を元気づける間、
えもいえぬ苦味が
われらが舌を喜ばす間、
そうした名誉があるかぎり、
珈琲の
その名と礼儀は、
いつまでも、いつもでも続く
これは、アレキサンダー・ポープの詩だ。
10月にはいってようやく涼しくなり、温かい飲み物が、暑い最中より美味しく感じられるようになった。
食欲も、増進。たべものに関する雑学本はたくさんあるけれど、そういう本も何冊か目になると、同じようなことばかり書かれていて面白くなくなる。(私は、たべものに関する雑学本は割と読んでいるほうだと思う)でも、今日読んだ山縣弘幸著『たべものむだ話』は、たべものに関する古今東西の詩や民間伝承がたくさん紹介されている点、そんなに薄っぺらい印象を持つこともなく、愉しく読めた。
「杏入りタルトレットの製法」
卵三ツ四ツ手にとりて
泡になるまで掻きまぜて、
セドラの甘露一滴と
杏の甘汁そそげかし。
タルトレットの焼鍋に
フランの捏粉敷きつめて
すばやく嵌め込む杏の実、
落とす卵の泡の水。
さて、焼鍋を炉にかけて
こんがり焼くや狐色、
上々吉の出来具合
タルトレットの杏入り。
(エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』より 辰野隆、鈴木信太郎訳)
上記、二つの詩は、『たべものむだ話』に紹介されていた詩だ。
「杏入りタルトレットの製法」で、小さい頃にうたった「カレーライスのうた」を思い出した。
「にんじん たまねぎ じゃがいも ぶたにく おなべで いためて ぐつぐつ にましょう〜」というような歌詞ではじまり、その続きもあると思う。料理をつくるときこういう歌をうたいながらだったら愉快そうだ、と思った。
よくアニメなんかでは、魔法使いのおばあさんが、材料をひとつひとつ歌のように唱えながら(呪文?)魔法の薬をつくる場面がある。それと似たようなものだな、と思った。レシピを丸暗記するより、年号をゴロあわせで暗記するように、料理も歌で覚えたらはやそうだ。私は、そんな歌に慣れ親しんで育ったのでもなく、「カレーライスのうた」しか知らないけれど、全国各地のおばあさんを訪ね歩き、そんな歌を記録している人がいたら是非調査結果を教えて欲しいなぁ、と思う。本屋の民俗学コーナーに行ったらあるかな・・・。