祇園祭月鉾のカメ

鶴岡真弓は、ケルトの装飾芸術に関する本を数多く著しているけれど、『装飾する魂』は、主に日本の文様芸術について世界各地の文様芸術と比較しながら書かれた本だ。

渦巻、鳳凰、唐草、桜、水、蝶、龍、縞…と、15のモチーフをテーマに、それらが何を象徴しているのか、どのような背景があって文様としてポピュラーなものとなっていったのか等について、鶴岡さんの豊富な学識が惜しげもなく披露され、独自の考えが展開されている。図版もそれぞれのテーマについてたくさん収められており、文中に書かれている装飾芸術がどのようなものかイメージしやすいよう配慮されてある。

今まで、それほど注意深くみてもいなかった装飾芸術について、この本を読んだおかげで俄然興味が湧いてきた。例えば、鎌倉から江戸時代の社寺や城の建築装飾は、動物という精霊が姿を顕している極彩色の森だそうだ。
「獅子」をみるなら西本願寺唐門、「虎」なら…というように紹介されている部分で、このブログゆかりの「亀」については、祇園祭の月鉾東妻の彫り物、と書かれてあった。祇園祭に行ったことはあるけれど、記憶に残っていないのが悲しい。(子供に人気のからくり蟷螂の記憶ならきちんとあるのだが…)次に行ったらきちんとみてみたいと思う。

装飾美術の厳守されるべき鉄則とは、「ものの姿は様式化・意匠化されて現われなければならない」「事物のかたちを表現するとき、その事物の非現実的な姿が追求されなければならない」ということらしい。

「装飾」美術の非現実性は、人間が世界の事物に直接触れられない存在であることを告げ知らせる。「装飾」美術はそれが果敢につくりだす幻想によって、人間が自己体験できないもの、人間が永遠に触れることができないもの、人間の外部にあるものを、告げ知らせる。すなわち装飾は、華やかな幻想の突端で、不可触である「死」と隣接しているにちがいない。だからこそわれわれは「装飾」を恐れつつ、同時にそこへひきつけられていく。忌避と陶酔が混濁する感覚。装飾する魂は、いつもその臨海に打ち上げられる。(鶴岡真弓『装飾する魂』)

装飾する魂―日本の文様芸術

装飾する魂―日本の文様芸術