天使のささやき

『天使のささやき』は、植島啓司の宗教にかかわる論文を集めた本だ。グレゴリー・ベイトソンとマーガレット・ミード、ハンス・ベルメール、リチャード・マーティンなどの本、写真集から引用された天使的な写真・図版もちりばめらている。

「善悪の一つの彼岸」「アジアの肉体の黄金」「南島へ」と題された論文(対談含む)は、バリについてのものだった。


楽園に至るまでには多くの困難が待ち受けていると人は語った。そこには永遠にたどり着くことができないと嘆いた詩人もいた。だが、それこそ虚妄のうちに閉ざされた心の産物なのかも知れない。楽園はいつでも至るところに存在している。ただ、人はそれを見ようとしないだけなのだ。

眠りから覚めるには、まず独りにならなければならない。

必要と思われるものを得ることよりも、不要と思われるものをすべて捨て去ることの方がまずは大切なのである。(植島啓司『天使のささやき』)

世界一周旅行をしている人は、大概バリで止まるという。

極楽感覚というか、自然だけでなく、音楽や芸能が交錯して反響する空間を味わわせてくれる点は、他にはないものでしょうね。(植島啓司『天使のささやき』)

もう長いこと、海外へのひとり旅をしていない。バリへ行ってみたいと思った。

必要と思われるものを考える暇もなく、不要と思われるものを捨て去ることにエネルギーを費やす毎日で、「何がしたい」と積極的に思うより「これだけはしたくない」と思うことの方が圧倒的に多い。不要と思われるものは、求めてもいないのに知らないうちにくっついてきていて、それを取り払うことは大変な作業だ。そして、もっと大変なのは、不要なものを必要と思い込んでしまわないようにすることだと思う。

旅に出ると、不要なものが何であったかについて気付きやすくなる。

もう長いこと何も考えないで毎日をすごしてきたような気がする。何も考えないでいられることが、これほど快感と密接に結びつくとは想定外のことだった。
もっと早く気がつくべきだったのかも知れない。思考は、そのほとんどが反省、後悔、心配、苛立ち、不安、疑問、怒り、絶望と結びついている。思考はおそらく人間にとってマイナスの要因でもあるのだ。(植島啓司『天使のささやき』)