ウィーンのカフェ

今、一般的な喫茶店*1で珈琲の値段は、安いところで300円、高いところで800円、平均550円といった感じだと思う。私は、その安いほうの喫茶店にも最近行っていなくて、180円ほどで珈琲を飲むことが出来るチェーン店を専ら利用している。

今でこそそうだけれども、学生時代はチェーンではない喫茶店が大好きで、お金のほとんどを喫茶店につぎこんでいた。それも、新しく出来た喫茶店より、老舗と言われるような歴史があって有名な喫茶店が好きというスノッブな好みで、旅行に行く時も、必ずその土地の喫茶店を調べていた。一日に2件や3件の喫茶店に行くこともよくあり、その頃の夢は喫茶店を持つことだった。有名なだれそれが愛し通った喫茶店というのにも弱かったのだけれど、それは喫茶店の物語を、歴史を、その場所で感じるのが好きだったからだと思う。当時の私にとって、喫茶店に行く前の予習は不可欠だった。

平田達治『ウィーンのカフェ』は、ウィーンのカフェを巡った後で買ったのでついつい読むのが後回しになっていたのだけれど、やっと最近読み終えた。切り離して考えることの出来ないウィーンの文化とカフェについて丁寧に調べ書かれているおそらく最良の和書だと思う。ウィーン・カフェに欠かすことの出来ない要素についてや、ウィーン・カフェ誕生にまつわる伝説・史実、ウィーン・カフェに集った人々のエピソード等かなり詳しく書かれてあって、これからウィーンに行くカフェ好きの人には是非オススメしたい本だ。私は老舗の喫茶店にこだわらなくなったとはいっても、やっぱり喫茶店が好きなので、この本を読みながら、自分が喫茶店好きであるということに理由付けをするという作業を行った。

「カフェ・ツェントラールはつまり、ほかのカフェのようなカフェではなく、一つの世界観である。しかも世界を観ないことを真の目的とする世界観である」
「カフェ・ツェントラールはウィーンの経度の下では孤独の子午線の上に位置している。その住人たちは大部分が人間嫌いと人間好きの性向とが共に同じほど激しい人たちであり、一人でいたいと欲しながら仲間をも必要とする人たちである。……おのれの暇に押し潰されないようにするため、おのれの暇を潰さねばならない人たちのための、正真正銘の避難所である。……」(平田達治『ウィーンのカフェ』)

日本の喫茶店と、この本の中で語られているウィーンのカフェの性格は、また別のものだから、結びつけるのも強引かもしれないけれども、アルフレート・ポルガーが『カフェ・ツェントラールの理論』の中で語ったというこの文章がとても気に入った。

フラヌールにとってもっとも心地よい場所は、やっぱり喫茶店のような気がする。喫茶店という場所は私がこのブログのタイトルとしたsauntering with a turtled:id:tartaruga:20070708の精神とも合致すると確認できた。

ウィーンのカフェ

ウィーンのカフェ

*1:茶店とカフェという言葉の使い方にこだわりをもつと、今の私には回収不可能になるので、ここでは喫茶店とカフェという言葉を同義のものとして使用したいと思います。