絵巻の面白さ

人がたくさん描き込まれている絵を見るのが好きだ。絵巻には人がたくさん描かれていることが多いので、日本史にはあまり詳しくないけれど、じっくり眺めることが多い。大抵、ちょっと見ただけでは気がつかないようなところでおかしなことをしている人をみつけることが出来、それが楽しみでじっくり見るのだけれど、絵巻の描き手には、本当に遊び心があるな、と思う。皆小さいのに表情豊かで、それぞれちょっとずつ違ったことをしており、動物にまで表情がある。

網野善彦『異形の王権』を読んで、「これから絵巻を見るのがますます楽しくなるかも」と、ちょっと得した気分になった。

例えば「扇で顔をおおうしぐさや口元を袖でかくすことについて」。これを一時的な覆面とみた網野善彦は、「公界」の場で突発的に起こった事件を見なくてはならない状況に遭遇したとき、あるいはすでに予想されるそうした事態に自ら加わるさい(例えば処刑を見るとき)、人はこうしたしぐさをし、人ならぬ存在に自分を変える意味を持たせたのではないか、と書いている。そして、これでもか、と言うほどに、絵巻に見られるそのようなしぐさの人の図が多くつけられていたので、「これは私も今度絵巻を見るときに注意してみなければ!」と思った。

他にも柿色の衣や蓑笠の意味、覆面をつけたり足駄をはいているのはどんな人か、昔の女性の一人旅はどのようなものであったか、などについて、多くの絵を見ながら知ることが出来る実に楽しい本だった。キーワードは「異形」である。

しぐさと言えば、今日、 『しぐさの日本文化』多田道太郎が亡くなったようだ。氏のこの本は未読だけれど、読んだらもっと観察が面白くなるかもしれないので気になる。

異形の王権 (イメージ・リーディング叢書)

異形の王権 (イメージ・リーディング叢書)