カオス

タヴィアーニ兄弟の『カオス・シチリア物語』を観た。カオスとは、混沌を意味するけれど、実際のイタリアの町の名前でもある。DVDジャケットの今にも海に飛び込みそうなポーズをとる後姿の少女に心惹かれて観ることにしたのだけれど、この映画を観ずに映画好きだと思って生きてきた自分自身に驚き、出会いは遅くなってしまったけれどこの映画に出会うことが出来てよかったと心から思った。5話からなるオムニバス形式のこの映画は、一話一話それぞれテイストが違っていて、鈴を結び付けられたカラスが狂言回しの役割を果たしている。狂言回しといえば、第3話「かめ」は喜劇で、狂言をみているかのように笑えた。笑えると書いたけれど、笑えるだけではないところがすごいところで、他の話も笑えないような話なのに、笑える部分をみつけられたところがまたすごく、この映画を観ながら短時間に様々な種類の興奮を味わった。原作者はルイジ・ピランデルロで、カオス・シチリア出身のノーベル文学賞作家だ。エピローグにはピランデルロ自身が登場し、亡くなった彼の母と対話をする。母の「ものを見ることが出来なくなった人の目で、ものを見ることだよ。その方が辛いだろうが、ずっと、ものごとが美しく、尊く思えるからね。」という言葉は私自身の胸にも刻んでおきたい言葉だ。