Wunderkammer 驚異の部屋

この世界は不思議な事物がなくとも消滅しないが、驚異の感情がなくなったら消滅するだろう。(J・B・S・ホールデーン)

例えば、クラフト・エヴィング商會の本に出てくるような不思議な道具の数々が陳列されている場所があったら是非とも行ってみたいと思っていた。この本を読み始めたとき、「ジュラシック・テクノロジー博物館(Museum of Jurassic Technology.)」は想像上の博物館なのではないかと思っていたけれど、どうやら本当にあるらしい。インターネットで検索するときちんとHPがある。実際にあると思っていたものが想像上のものに過ぎなかった経験は多いけれど、想像上のものにすぎないと思っていたものが実際にあるということなんて滅多にないので、すごく興奮した。

「驚異の部屋」(Wunderkammer)とは、十六世紀のドイツで流行りだした、珍しい文物を収蔵・展示した小部屋のこと。それはいわば現代の博物館の前身ともいうべきものであるが、その登場は、コロンブスの新大陸発見、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓、マジェランの世界一周等々によって、新奇なるものに人々の好奇心が募り、また、新大陸などから珍しい物品が雪崩のようにヨーロッパに流入しはじめた時代背景と切り離せない。そこで展示されていたのは、アルコール漬けの動物・植物の標本、化石や鉱物、各地の民族学的な標本、美術品、物理・化学の実験器具、各種機械類など種々雑多なもので、初期の時代にはまったく分類されることなく陳列されていたという。
(ローレンス・ウェシュラー「ウィルソン氏の驚異の陳列室」訳者あとがきより)

ウィルソン氏は、驚異の部屋を現代アメリカに甦らせた。

ロサンジェルス郊外のウィルソン氏の博物館にはそうそう簡単に行けないけれど、古道具屋や古物市では時々驚異の感情を呼び覚まされることが出来る。しばらくはそれで我慢しよう。

ウィルソン氏の驚異の陳列室

ウィルソン氏の驚異の陳列室