古書好きにオススメ

『チャーリング・クロス街84番地』は古本や古書店好きに是非ともオススメしたい映画だ。アメリカに住む作家の女性ヘレーヌとロンドンの古書店で働く人々が、ヘレーヌによる古書の注文をきっかけに、手紙や贈り物のやりとりを頻繁に行うようになり心を通わせていくというストーリーで、原作者の実体験が元になっている。古本屋が舞台になる映画はとても少ないと思うのだけれど、どうなのだろう。『パリの恋人』でオードリー扮するジョーが勤めていたのは、古書店風だったけれど普通の書店だったと記憶しているし…最近では、珈琲時光にほんの少し古本屋が登場していたことが嬉しかったかなと思い出せるくらいだ。図書館はよく登場しているのだから、古本屋ももっと映画に登場させて欲しい。『チャーリング・クロス街84番地』の時代背景は、戦後〜学生運動が盛んになるあたりまで。戦後イギリスの食糧難の描写やビートルズを聴く若者の描写があったり、また登場人物も年齢を重ねていくので、時代の移り変わりを強く感じさせられた。
記憶に残るシーンは数多かったけれど、この映画の最大の魅力は商売における売り手と買い手との理想的な関係が描かれていることだと思う。売り手は買い手が必要なものを常に気にかけて探し、買い手が本当に喜んでくれるものは何であるのかあれこれ考え提案し、売る。買い手の側も、気兼ねせずに自分が何を必要としているのかを売り手に伝える。売り手と買い手双方に単なる品物や金銭のやりとりをしているという感覚以上の刺激や喜びをもたらす行為だ。買い手が必要としているものを提供したり提案するために売り手にとって必要なことは相手がどんな人物であるか知っていることだけれど、そのために、買い手の注文する商品の傾向、どんな場合にクレームをつけるのかなどからその人物の全体像を想像していくことは、頭をつかうけれど愉しくもある仕事だと思う。確かに現在多くの企業はパソコンで顧客のデータ管理をしており、その人の買い物の傾向から気に入りそうな商品を紹介するシステムを導入している。でも、買い手の立場から言うならコンピュータに自動的に分析されおすすめ商品を提案されていると思うとちょっと悲しい。またたとえ商売の効率や利益は上がっても売り手の喜びも失われているのではないだろうか。失われつつある人と人との関係なのだろうと思うと切なくも感じられる映画だった。例えば、喫茶店やバー、ホテルにおける常連さんの扱いもこれに類するサービスなのだろうな、と思う。でも、以前は当たり前であったはずのこのようなサービスはだんだん受けるのが難しくなっている気がする。