手元に置いておきたい「本」

植物好きが高じて今や研究者の如くに日々野山に行き、そこに自生する植物の調査をしている母と、最近たまに一緒に植物の観察をしている。普段ドライブしながら「きれいね」と言うだけで通り過ぎている野山でも、個々の植物に注目してみると、時間帯や場所をほんの少し変えるだけでも違って見え、小さい頃からインドア派だった私にも自然の魅力や母が植物にのめりこんでいる理由が少しわかってきた。
母が調査対象としているのは主に樹木や羊歯植物等で、花屋で売られているような観賞用の華美な花とは少し系統が違うけれど、以前植物の好きな母への贈り物として最適だと思い贈った本が、澁澤龍彦『フローラ逍遥』だ。ここに出てくるのは、水仙や椿、菫、朝顔等、誰もが知っているような親しみのある植物ばかり。澁澤氏お得意の西洋のエピソードもたっぷり盛り込まれており、毎度ながらの名文もさることながら、とにかく図版と装丁が非常に美しい本なので、最近は文庫版も出ているようだけれど、やはり単行本で買うことを人にはおすすめしたい。澁澤氏自身あとがきにおいて「この本の魅力の半分以上が図版に負うにちがいない」と書いているほど美しい本なのだ。
こんな本を手に取ると、いくらきれいな画像を拡大してみることが出来たとしても、デジタル書籍にはかなわない「本」の魅力を感じる。図書館で借りて一度読むだけで終えずに手元に置いていつでも眺められるようにしておきたいような本に、これから死ぬまでの間、できるだけたくさん出会いたい。

フローラ逍遥

フローラ逍遥