すてきなホーム暮らし

雑誌サプライズを読み、城夏子という作家のことを知った。サプライズは、度々私の好きな森茉莉の特集を組んでいる雑誌なので、そこで紹介されている人や本には信頼をおいている。そこで、城さんの文章を読んでみたくなり、サプライズの編集者である早川茉莉氏編の『また杏色の靴をはこう』と、『愉しみ上手、老い上手』を入手してみた。

『愉しみ上手、老い上手』を読んでみてまず驚いたのは、城さんが、60代で移り住むことを決めた有料老人ホーム暮らしを心底愉しんでいるような書きっぷりにである。城さん60代というと1902年生まれの城さんだから、1960年代、いくら有料のホームとはいえ昔のホームだからどんなものなのだろう、と心配したとしたら、それは取り越し苦労である。まったく羨ましくなるほど仕合せそうなのだ。

城さんの暮らしたような有料老人ホームと老人福祉施設というものは別物と考える必要もあるけれど、いくら有料とは言っても老人ホームに暗いイメージを持つ人はまだ多いと思う。私は福祉関係の仕事をしていた時、実際高齢者が入居している施設に何度か足を運んでいるが、それでもやはり暗いイメージを持っている。たまたまもあると思うが、訪れた施設は、消毒くさい臭いと殺風景な建物に、忙しすぎて笑顔を失いかけている職員もいたりと、現代の姥捨て山的な印象を拭い去れない施設が少なからずあった。自ら望んでの入居である城さんと必ずしも自ら望んでの入居ではない人ともやはり区別する必要はあるが、城さんの文章から想像できる城さんほどホーム暮らしを愉しんでいるような方もみたことがない。ホームに入居されている方や職員の方に失礼ではあるけれど、『ここで幸せに暮らし、終焉の時を満足して迎えることができるのだろうか』と哀しい気持ちになったことも多かった。

城さんのように有料のところにいける人はそれだけ自分の好みに近い施設を選ぶことが出来るだろうし、どんなところに入居してもその人の考え方次第である。それに、現代では昔以上に、利用者さんに満足してもらえるようにと様々な取り組みがなされ、それなりに素敵なホームもたくさんあるだろう。

にしても、ここまでホーム暮らしを、そして高齢期を愉しみきった城さんはすごい。きっと城さんはまわりの入居者をも明るく仕合せな気持ちにさせていたことだろう。もし、高齢の知り合いがホームに入居することになったり、本好きのホーム暮らしの人を訪ねる機会を持つことが出来たとしたらこの本を渡したいな、なんて思ったのが城夏子著『愉しみ上手、老い上手』を読んだ感想である。

そして『また杏色の靴をはこう』早川茉莉氏の解説を読み、「やっぱり!」と思ったのは、「どうしてそんなに陽気でクヨクヨ知らずなんですか」と皆に聞かれたときの城さんの答えだ。城さんの文章を読みながら、常に「似てるな似てるな」と思っていた女の子がいるのだけれど、城さんはまさにその女の子をご存知だった。「あのね、これみなパレアナのお蔭です」と答えたとのこと。

少女のような老女という存在にすごく惹かれる私であるが、すてきな先輩をまた一人みつけることが出来て嬉しい。

また杏色の靴をはこう

また杏色の靴をはこう

愉しみ上手 老い上手

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