アルバムに登場するということ

人間が「出会う」ことは、相手のアルバムの中に登場することなのだという、そんな当たり前のことを感動的にみせてしまう素晴らしい構成になっている。伴田良輔著『奇妙な本棚』)

伴田良輔『奇妙な本棚』の中で、ピエール&ジルの本を評した章の一部分だ。 「出会う」ことは、相手のアルバムの中に登場すること、という言い方は、もしかしたらよく使用されているのかもしれないけれど、私にとってはとても新鮮だった。
幼なじみの家や親戚の家に行き、アルバムをみせてもらう機会があるとき、そこに自分が持っていない自分が写っている写真をみつけて、自分であるはずなのにそれが自分ではないような妙な感覚に捕らわれることがある。それらの写真は、自分の好きな写真ではなくても、何らかのきっかけで処分されない限り、相手の所有物として保管されることになる。その逆もあって、自分が撮った写真の中に写っている知人や見知らぬ人についても、どんなかたちで写っているのか本人は知らないままに私のアルバムに残されることになる。誰かの写真に写る、ということはその時、その場に居合わせたというだけで多少なりともその誰かと縁があったということなのだろう。たまに、誰かが写真を撮っている背景に自分が入ってしまっているだろうな、と意識することもあるけれど、大抵の場合は、無自覚に他人の写真に写っているのだと思う。決してそのような機会は訪れないだろうけれど、誰かの写真に残された過去の自分の姿をいっぺんにみることが出来たら、よほど不思議な気がするだろう。

時々、自分が撮った写真に写っている見知らぬ誰かに好感を持つこともあるし、学生時代は、好感を持った人物の近くで、その人に気付かれないように一緒に写真を撮ってもらうという遊びもした。つくづく写真とは面白い媒体だと思う。

『奇妙な本棚』は、面白い本(例えば、動物のウンコだけの写真集やバストだけの写真集)ばかりを紹介した本だ。でも、読みながらつらつらと考えた。この本に載っているような面白いコンセプトの写真集を眺めるのももちろん好きだけれど、それに匹敵するほど私にとって面白いのは、知人の撮った写真をアルバムとしてみせてもらうことだな、と。

奇妙な本棚 (ちくま文庫)

奇妙な本棚 (ちくま文庫)