【マナーの勉強】6.明治の作法

そもそも【マナーの勉強】で最初に勉強しなければならないことではあったのだけれど、マナーというか、私たちが現在正しいと思っている作法は、文明開化の波を受け、和洋混在となった日本の状態を正そうとした文部省が全国調査をし、各地の習慣などを調べ、識者との検討の結果、「日本人の作法」として定めたものだったらしい。朝の挨拶から、往来の歩き方、名刺交換の仕方、お見送りの仕方に至るまでを文部省が定めた。更には、明治40年の通知票に、行儀作法を示す「操行」という項目があり、教科書には、当時の庶民であったら一生縁が無い人がほとんどであろう、西洋式の豪華な食事の作法も掲載されていたという。外国人に笑われないための涙ぐましい努力だ。シャンパンでの乾杯も、未成年者飲酒禁止法ができて以降まで6年生が勉強していたというから面白い。三鞭酒は乾杯に用いるものですから、飲む飲まぬに関わらず、給仕が注ぐのを断ってはならぬ。これは乾杯用の外勝手に飲乾さぬ。

最近のリクルートスーツでは黒が大流行です。同じく江戸中期の作法書(『貞丈雑記』)では、黒は「かちん色」とも言われ、これが「勝ち」に通じ、「勝つ色」とあり、軍陣でよく使われていたと紹介されています。
大将が出陣する時は、馬の手綱を勝つ色(黒)にしたほどです。黒スーツで勝ちに行くのは作法の道理にかなっているとも言えるでしょう。(横山験也著『明治人の作法−躾と嗜みの教科書』)

横山験也著『明治人の作法−躾と嗜みの教科書』では、上記のようなちょっと就職活動に役立つかもしれない雑学を得ることが出来る。読んでいると、現代において良しとされているマナーと一緒と思うこともあれば、この本のままに明治の作法を実行すると滑稽になってしまうこと、どちらもあるので、就職活動中の学生さんはご注意を。

例えば、現在でも受付・案内をする際にマナーとされていること尊長ヲ案内スル場合ハ少シク先キニ行クベシなどは一緒だ。

しかし、訪問ノトキハ………取次ノ者ニ挨拶シテ氏名ヲ告ゲ又ハ名刺ヲ出シ簡明ニ来意ヲ述ブベシについて、ここまでは現代の訪問マナーとそれほど違いはないが、より細かく名刺交換の作法については、戦前、名刺を片手で出すのが作法だたったということで、現代とはちょっと異なる。更に遡り、武士の作法では、小さいものは扇子の上に載せて差し出す作法があったので、明治になっても、名刺を扇子の上に載せて出すことを作法としていた人もいたらしい。現代で、名刺入れを台にすることもあるというのは、その変遷かもしれない。

名刺の授受のような、授受の最高峰の形というのが、辞令や卒業証書を頂くときの形ということで、あぁ、義務教育時代に教えられた作法の中で、記憶に残る作法(?)マイベスト3は、「起立・礼・着席」「前ならえ・進め・まわれ右・休め」そして「賞状などの受け取り方」だと思った。

まず、校長先生の三歩手前で一礼をします。それから三歩進み出て卒業証書を頂きます。左手、右手の順で証書を持ち、頂き、三歩退いて礼をします。(横山験也著『明治人の作法−躾と嗜みの教科書』)

懐かしい。

大妻女子大の創始者である大妻コタカという人は、「常識礼法」という概念を打ち出した作法会の大物だが、彼女が昭和初期に選んだ季節の贈物には乙女心をくすぐられたので備忘録として。

  • 年玉=これは新年の贈物であります。年始の回礼に持参するもので、風呂敷、ハンカチーフ、手拭、葉書、半紙なんどの手軽なものが多く、稀には書籍、暦、筆、墨、鉛筆、絵草紙、画集、万年筆等を送り、特殊の間柄にあっては、葡萄酒、鶏卵、鰹節、蜜柑、浅草海苔などを贈ります。大体手軽なものがよく、勅題の扇子などは、最も面白いと思います。
  • 寒中見舞いの贈物=真綿、反物、フランネル、シャツ、ジャケット、襟巻、頭巾、足袋などが適当し、食品ならば、酒、葡萄酒、鶏肉、猪、鹿、兎の肉、牛肉、鴨、雁、雉子、鶏卵等、要するに季節にふさわしい物品を贈れば宜しい。
  • 暑中見舞の贈物=これも季節相応に、団扇、扇子、岐阜提灯、硝子製の鉢、皿、コップ、ハンカチーフ、食品では、果物、サイダ、ビール、曹達水、素麺、片栗、東など、いずれも結構でありますが、最も多く砂糖が用いられているようであります。
  • 中元=盆礼として行うのでありますが、時期が暑中見舞と同じですから、現今では暑中見舞いを配して、中元に贈物をする場合が多いようであります。品物は暑中見舞と同じで宜しい。
  • 歳暮の贈物=先方で新年へ持ち越して使われるものが宜しい。季節柄反物、シャツなど、寒中見舞の贈物は、すべてこの場合にも用いられますが、羽子板、凧、新年用絵葉書、勅題扇子、下駄などは、歳暮の贈物として、一段相応しく思われます。食品ならば、塩鮭、塩鰤、棒鱈、数の子、海老、蒲鉾、するめ、ごまめ、昆布、蜜柑、干柿、慈姑、鰹節、干瓢、牛蒡、雁、鴨、鶏肉、鶏卵、勅題菓子など、やはり相応しい品々であります。
  • クリスマスの贈物=耶蘇教信者の間では、毎年十二月二十五日のクリスマスには、互いに贈物をして、祝意を表しますが、一般には行われていません。先方に子供があれば、その子供へ玩具類を贈ります。その他西洋化し、室内の装飾品など、いずれもクリスマスの贈物として適当であります。 大妻コタカ『日常常識 礼儀作法』より)

明治人の作法―躾けと嗜みの教科書 (文春新書)

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