ミュージカル映画が苦手な人に

舞台のミュージカルはほとんど観ないが「ミュージカル映画」(特にハリウッド黄金期の)が大好きだ。舞台のミュージカルが好きという方にはたまに出会えるけれど、「ミュージカル映画好き」という人には残念ながら今まで実際に出会ったことがない。関連本も少ないように感じる。古い本だが、柳生すみまろ著ミュージカル映画を超えるミュージカル映画専門の和書を目にしたことがない。『狸御殿』シリーズなど和製ミュージカル映画というものは、戦前からたまには作成されているようだけれど、日本人とミュージカル映画はあまり相性が良くないのかもしれない、とこのマイナーさ加減から思ったりしている。というのも、「ミュージカル映画って、ちょっと苦手」という発言を聞くことのほうが、好きという発言を聞くことより多いからだ。理由は想像できなくもなく、きっと登場人物が突然歌ったり踊りだしたりするのが不自然に感じられ、気恥ずかしくなってしまうからなのだと思う。

でも、「ミュージカル映画」ときくだけで拒否反応をおこす人がいるとしたら、いちファンとして、「それはもったいない」「ちょっと待って欲しい」と思う。確かにミュージカル映画は、ストーリーが単純でわかりやすく、底抜けに明るかったりして現実味がないものがたくさんある。ストーリー的に、ミュージカル映画好きな私からみても面白く思えないものはたくさんある。でも、ストーリー、音楽、ダンス、俳優など、映画の要素を分けて考えることが出来るとしたら、「ミュージカル映画が苦手」な人には、音楽という観点からミュージカル映画を観ることをおすすめしたい。ミュージカル映画では、ダンスも重要な要素を占めているけれど、歌がまず第一の要素だからだ。歌のないミュージカル映画はまずないけれど、ダンスシーンがほとんどないミュージカル映画というのはたくさんある。どこからが、ミュージカル映画でどこからがミュージカル映画ではないか、という線引きをするのは難しいし、明確な定義はない。

例えば、『男と女』気狂いピエロも立派なミュージカル映画と言えるだろうし、歌手やダンサーが主人公となっている映画で、ワンシーンだけ主人公が歌ったり踊ったりしているシーンがあるとしたら、それも一種のミュージカル映画と言えると思う。『帰らざる河』でマリリンが歌うシーンやティファニーで朝食をでオードリーが歌うシーンなどがミュージカル映画と思われていない映画の中でのミュージカル要素にあたる。反対に、ミュージカル映画をジャンル分けすることも出来る。『ウエスト・サイド・ストーリー』は社会派の映画と言えるし、ジーザス・クライスト・スーパースターなんかは時代スペクタクル映画と言える。たいていはラブ・ロマンスにあたるのだろうけれど、ホラー要素が強かったり、アクション要素が強いミュージカル映画もある。ジャンルとしてヌーヴェル・ヴァーグが好きな人、ネオ・レアリズモが好きな人、アジア映画が好きな人など様々だと思うけれど、そのジャンルの中で探してみるときっとミュージカル映画と言って良いものも含まれていると思う。

以上、「ミュージカル映画」=「歌・ダンス・陳腐なストーリー」ではなく、実は幅広く考えることが出来るものなので、違う視点からミュージカル映画を観てはいかがだろうか、ということが、「ミュージカル映画が苦手」な人へ「ミュージカル映画好き」な私からのご提案です。

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