川端作品と映画

佐藤忠男『映画の中の東京』読了。東京を舞台にした映画を軸に、江戸〜昭和の映画史や人々の生活の変遷を解説した好著だった。取り上げられているのは、小津、黒沢、成瀬の有名な作品が多かったが、知らない作品があっても読むのに困らない内容。丁寧な解説があり、私も今後観てみたいと思える作品がたくさんあった。特に溝口健二『折鶴お千』は、本文中の簡単なあらすじだけでジーンとなってしまったので優先的に観たい。

雑踏する盛り場が東京でもっとも栄えたのは、関東大震災(1932年)以前の浅草だったとのこと。最新映画が封切られ、当時一番ハイカラであったオペラが盛んに上映されていた。成瀬巳喜男監督『乙女ごごろ三人姉妹』(1935年)も是非早く観る機会を得たいと思った作品のひとつ。川端康成の「浅草の姉妹」が原作で、盛り場を三味線を抱え、門づけして歩く女たちの話だ。『映画の中の東京』によると、この映画、見どころは流しの女たちの、あわれっぽくおどおどした日々の描き方にあるらしい。私は原作を読んだことがないけれど、芸大の学生が監督した川端作品オムニバス映画夕映え少女(2008年)で、同じ「浅草の姉妹」を原作にした短篇を観ている。そちらを観た時は、生活は厳しくとも粋にしたたかに生きる姉妹の姿が現代の若者の感性で印象的に描かれていたので、違う描き方をしている成瀬監督の映画を観るのが楽しみだ。

と書いていてふと気付いたけれど、川端作品って映画化されているのものがすごく多い。私が観たことのあるものだけ挙げても、野村芳太郎監督伊豆の踊子清水宏監督「有りがたうさん」増村保造監督千羽鶴成瀬巳喜男監督「山の音」中村登監督「古都」豊田四郎監督「雪国」とあり、調べてみるともっと多くの作品が映画化されていた。たとえば、一人の監督が一人の作家に惚れ込んで、その作家の作品を何本も撮ったり、一作品だけが気に入られて多くの監督に映画化されるということはよくあると思うけれど、こんなにも数々の監督が、それぞれ違った作品を映画化しているというのも珍しいのではないかと思う。日本映画の歴史を彩るビッグネームに原作として採用され、演じられ、その映画化作品がまた単体で、時には川端作品ということが客に気付かれることすらなく名画とされていることが多いことが面白いと思う。私が原作も実際読んだものといえば「雪国」と「浅草紅団」くらいだけれど、これほど多くの監督に映画化されたという理由を探るという意味でも川端作品を読みたくなった。

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